スーパーカブ
ホンダ・スーパーカブシリーズの人気が衰える気配がありません。
最近、同名小説を原作とするアニメ「スーパーカブ」も始まり、人気はますます高まっていくものと思われます。
さて、先日、私は某所で、ホンダ・スーパーカブの自動遠心クラッチがJAWA(ヤワ、チェコのバイクメーカー)の特許を侵害して賠償金を支払った事例を紹介しました。
これは、世界初の自動クラッチ搭載バイクとされているJAWA350(1964年)に使用されている自動遠心クラッチの特許を、スーパーカブが欧州で販売開始された際に侵害したと言うものです。
スーパーカブC100の日本での発売は1958年(昭和33年)8月、ヨーロッパ進出が1963年なので、発売自体はJAWA350のほうが後なのですが、特許は既に押さえられていたのでしょう。
結果としてホンダは賠償金とロイヤリティをJAWAに支払うことになったようです。
進出前に権利関係を調べるぐらいはやりそうに思うのですが、当時は権利に関する考えもおおらかだったので、取り敢えず発売して何かあったら対応すれば良い、みたいな考えだったのかも知れません。
この時、スーパーカブのユーザーとみられる方から「スーパーカブは他社のパクリではない」的な指摘を執拗に受けました。
スーパーカブは当時としては画期的な製品でありホンダが世界に誇る発明品であることは疑いようのない事実であり、私もスーパーカブが他社のパクリだとは思っていないし、言ってもいません。
私も「スーパーカブが他社のパクリだとは言っていない」と再三申し上げたのですが、この方は理解できないのか、「よくある特許紛争の1つに過ぎず、悪意ある模倣とは分けて考えるべきだ」と従前の主張を執拗に繰り返すばかりでした。
そんな事はこの方に言われるまでもなく至極当然の話であり、そもそも私は「スーパーカブは他社のパクリだ」とは最初から一言も言っていないのです。
発明品というものは、何も無いところからいきなり完成品が出てくるようなものではなく、必ず何か参考にされたものがあり、それを改良したものであることがほとんどです。
スーパーカブについては1956年(昭和31年)に通産省(当時)と業界団体でおこなった欧州視察に参加した本田技研創業者の本田宗一郎と専務の藤沢武夫が、ヨーロッパ諸国で視察したモペッド(Moped、エンジンと自転車のペダルを併用する乗り物)を参考に開発されたことが、藤沢の著書「経営に終わりはない」や、書籍「ホンダスーパーカブ」に書かれています。
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因みにモペッドを推したのは藤沢で、本田はモペッドよりスクーターを推していたそうです。
「ホンダスーパーカブ」では、原田義郎・車体設計課長が、NSUクイックリィ(1954年)やオーストリアのプフ(Puch)を参考にしたと証言しています。

【NSU クイックリィ(画像:Wikipedia)】
また、昭和48年に鈴木自動車(当時)に対して起こされた意匠侵害裁判で、本田技研が「それまで全く存在しなかった」と主張した「アンダーボーンフレーム」も、ヨーロッパのモペッドでは珍しくないものでした。

【特許庁「意匠制度120年の歩み」より】
上記「ホンダスーパーカブ」ではフレーム構造はドイツのツュンダップ・タイプ423を参考にしたと書かれています。

【ツュンダップ Combinette 423S(1957年)(画像引用元)】
このように、様々な参考、引用があったとしても、スーパーカブが画期的な発明品であることは変わらないのですが、スーパーカブが唯一無二の存在と信じて疑わない、スーパーカブ原理主義者とでも言うような人にとっては、スーパーカブの基幹技術である自動遠心クラッチが、スーパーカブより先駆けて他社によって実用化されていた事実をどうしても認めることが出来なかったのでしょう。
余談ですが、私が未だ若かりし頃、友人がホンダ車を買いたいと言うので、私の車でホンダディーラーに行きました。
対応した中年男性の営業マンは、私の車(他社製)をさんざん貶した上、「現在の自動車技術は全てホンダの発明であり他社の車は全てホンダの模倣だ」と言い放ったのです。
若かりし私は、この営業マンのあまりの無知に呆れ返ると同時に、ホンダの車は死んでも買わんと心に誓いました(笑)
ホンダ車を買うと意気揚々言っていた友人も、結局ホンダ車を買うことは無かったので、彼もこの営業マンの態度に何かしら思うところがあったのかも知れません。
私が今もホンダの車やバイクを一歩退いた目で見るのは、こうした原体験があるからなのでしょう。
車もバイクもホンダ車は優れていると本当に思っていますが、取り巻いている環境がアレなのです(汗)
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